ほどかれた手の淋しさを知っている けれど

 

繋いだ手の暖かさは、未だ。

 

 

 

臆病者の言い訳

 

 

 

 

外では寒空が広がり、この世に生を受けた者達はその冷たさに身を寄せ合い手を取り合う。

だがしかし 今 自分が存在している世界と外界との相違点。体の一節にすら、外を巡る冷風は感じられぬ

暖炉の中で燃ゆる火と、優しき抱擁を施すソファに包まれ、僕は現実と夢の狭間に居た。

かろうじて残る意識の中、聞こえてくるのは木材の燃え落ちる音と隣に居る君の息遣い

 

 

恐らく通常ならば当に現実に留まっては居なかったであろう。

然し今は掠れながらも自分の意識が途絶える様子は見られなかった。

ずっと、熱を帯びる個所がある。

其処には今現在自分の全ての意識が集中しており、其れこそが眠りを妨げる原因となっていた。

ソファに投げ出し、預け切った体。

よって其れと共に有る この手がソファにまた投げ出されるのも至極当然な事であって。

 

只、思わぬ結果となっただけ。

彼女の指先に、自分の其れが触れただけ──────只其れだけなのに。

 

 

微かに触れ合っているその指先には、存在し得ない程の熱が生まれる。

其れは目前で燃えていた筈の、暖炉が放つ赤々とした炎よりもずっと熱く

自分の相棒のヘドウィグ、彼女の甘噛みよりもずっと優しく柔らかい感触。

 

彼女は、気付いているだろうか。

もしそうであるならば、今どんな表情をしているのだろう?

ふと閉じた瞼を開けてみようかとも思ったが、すぐさま思い留まり悪態をつく。

 

 

 

 

 

 

馬鹿げてる、彼女はなんとも思ってないと決まっているのに──────

 

 

 

 

 

想いを伝える事を考えなかった訳ではない。

それでも、今の関係に甘んじるべきだと いかにも正当な理由らしく組み立て其れを行動に移そうとしなかった。

所詮は、只怖かっただけなのに。

 

 

触れていた個所から出る熱が、酷く痛みを帯びた其れに変わり、なるべく自然な形で彼女の指から離れる  だが。

少ししてから、また触れ合う指と指。

先端同士で口付け合い、またじんわりと滲んでくる 熱 優しさ 其の類。

 

 

 

幼き頃、記憶も無い筈なのに覚えている母の温もり、父の温もり。

離された手の冷たさは、変わる事無く残っていた。

だから尚更、絡み合う手の熱を知りたくて、感じたくて。

 

 

 

触れ合う個所を徐々に広めていく。

少しにじむ汗の感覚、それでも手を休めようとは思わなかった。

 

 

何故、好きな人に そう伝えるだけで

こんなにも胸が痛むのだろう?

 

 

あまりにも不自然な、初めての接触。

手を繋ぐだけで高鳴るような幼い想い。

 

 

 

 

 

そうしてまた求め、離される事を恐れる

 

臆病者の言い訳

 

 

 

 

END